僕は僕が先輩を待つのを待つ先輩を待つ

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 時々糸の切れてしまう先輩は、とても脆くて儚かった。わかっていたのに。わかっていたのに。  手近にあった石を、海に沈める。波紋が広がる。  数時間前。先輩はどうして急に、海に行こうだなんて言ったのかを考える。 『君は、いつまで私を待ってくれるんだい?』  部屋の前、ドアを背にして、先輩は言った。 「いつまでもですよ」  そう言いながら、扉から視線を外し、玄関から部屋までの短い廊下を見渡す。いつ枯れたかもわからない、色を失った花が頭を垂れている。  何を隠しているんですか、とは言わなかった。先輩は脆いから、先輩が嫌がりそうなことはできるだけしないと決めていた。いつか、先輩から教えてくれるのを待とう。  コルクボードには写真よりも余白が目立つ。埃をかぶったギターは、弦が二本切れている。  先輩は依然として道をふさいだまま、僕の顔を伺っているようだった。居心地の悪そうな眼をしていた。 そして、そのまま僕を押し返す。 「海、行こうよ」 「今からですか」 「今からだよ」 「急ですね」 「急だよ」  そして、言われるがままに海に来てしまった。  どうして海に来たんだろう。何を隠したんだろう。なんで、いつまで待つかなんて聞いてきたんだろう。  これは予想に過ぎないけれど。     
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