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空気の唸り。さっき見てきたからか、ここからでも聞こえる音に気が付いた。波の音。ザリザリ、荒れたコンクリートの音。
マフラー越しの唇に、温度を持ったものが触れた。
「いいよ」
そこには、先輩がいた。
まるで、続きみたいに。
先輩は口を開く。
「もう一度、私を待ってくれてありがとう」
「どうして」
「ごめんね。こんなタイミングで、糸が切れちゃったみたい。でも、君の言う通りだった。私は帰ってこれた。君はきっと私を待ってくれると思ったから、私は、君が再び待ってくれるのを待つこともできた」
「待つ待つ言い過ぎて、よくわからないですよ……」
そう言いながらも、僕はついに泣き出してしまった。
先輩はもう僕を信じていないんじゃないかって、疑っていたのは僕だけだ。先輩は、自分の脆さやハンデを越えて、僕を信じてくれていた。
「構わないさ。私はきっとこれからも君に迷惑をかける。きっとふっと消えることもあるだろう。でも、片方が離れたときは、片方が帰る場所になる。君が良ければ、私はそうやって君と生きていきたい」
そう言って、先輩は子供のよう泣きじゃくる僕の頬に手を添えた。ひどく冷えていて、僕はそのぬくもりで、一層泣いてしまった。
そして、先輩をいつまでも待つと、再び心に決めた。
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