豆屋の新春

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正月休みも2日もすれば、もう十分に休息を満喫してしまった。 加えて、昼間の日本酒が楽しいのも、2回が限界 店の事が気になって仕方がない。 ひょっとしたら‥‥ 閉まりが悪くなっていた冷蔵庫のドアが、開いちゃいないか 天井板にかろうじてくっついている、剥がれかけのモールが、ついに剥がれて、焙煎機に墜ちていないか 豆達は暗く寒い部屋で、何を思っているのか などと豆屋の店主っぽいことを書いてみたが、正しくは、早くいつもの日常に戻りたいだけなのだ。 いつからこんな風になってしまったのか。 若い頃には、無理をして年末年始に10日間の休みを取った事もあったし、遊ぶ時間が少なくなってくると、自営業の恨み辛みを、時々自分自身や家族にぶつけたりしていた。 それがたった数日休んだだけで、自分の身一つ持て余し、いるべき場所、やるべき作業に無性に帰りたくなっている。 まるで、仕事以外趣味や楽しみを持てない、寂しいジサマのようだ。 嫌だなあジサマの仕事人間 とはいえ、口で言うほど悲観もしていない。 店は僕の生きるエネルギーだ。 世のおじさん方の中には、夜になると、稼いだ金を握りしめ、若き女性と一生懸命酒を飲み、楽しくおしゃべりをする場所に、熱心もしくは時折通い、それを明日への活力にする人もいる。 それはそれですばらしい。 そういう事も確かにあった。 うん、あった。あった。 ところが今の僕は、夜な夜な街へ繰り出さなくても、お客様から珈琲豆の代金を頂戴しつつ、会話が弾めば心が満たされ、知らなかった事を教えていただいたり、誤りに気づかされたりしている。 店に立てば、そこは図書館にいるようなもので お客様の召し物や髪形を拝見して、ファッション雑誌 釣りやカヤックやサイクリングの話は、ハウツー本 甘い香りや渋い香り漂う恋愛小説 読んで、元気になったり、切なくなったり、店にいながらにして、たくさんの本を読ませて戴いているようなものである。 こんな風にお客様との時間を過ごせるようになり、その時間が、僕の生きるエネルギーの源になったのは、最近ではなかろうか。 正真正銘のジサマに成長した証である。 もしかしたら、素敵な物語のような恋が僕にも‥‥ まあ下心も尊重しつつ、とにかく早く日常に戻りたいのである。
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