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「……最初、なんのことか分からなかったんですよ」
今日の依頼主は、まだ若い女の子だ。声は幼いがしゃべり方はしっかりしていて、育ちや頭の良さを感じられる。
彼女の依頼で「一緒に待つ」この間、初対面の僕との時間の費やし方に戸惑っているようで、ぽつりとそうつぶやき始めた。
僕の依頼人にはよくあることだ。なので僕もいつもと同じように返事を返した。
「怪しい広告だよねえ」
そう言って笑うと、彼女も小さく笑い返してくれた。
僕の仕事は、依頼人と「一緒に待つ」ことだ。
依頼内容は広告に記載したメールアドレスやメッセージアカウントに直接飛んでくる。
「知人と待ち合わせをしているがその間、暇なので」とか。「一人で父の手術を待たなければならなく、不安で」とか。
時間とこちらが提示した料金が折り合えば契約成立。僕はその間、依頼人と一緒に待ち続ける。誰か、であったり、何か、であったりを。
今回の依頼主である彼女ーー便宜的にイチコさんと呼ぶ。もちろん支払いさえしっかりしてくれれば名前など個人情報の提示も必要ないーーの依頼は「大学の合格発表を一緒に待ってくれ」とのことだった。
「発表が午前十時からなんです。それまで話し相手になってください」
短いメッセージで始まったそんなやりとりの結果として、いま僕はイチコさんと一緒に合格発表の午前十時を待っているというわけだ。
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