あなたと一緒にお待ちします

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 そして、目の前のディスプレイから「通話中」の文字が消えた。  ネット通話アプリに繋がるスピーカーは、完全な沈黙のシャッターが降りている。僕はふう、と一つ息をついて、わずかに動く指先で専用コントローラーを操作し、口元からマイクを脇にずらした。  病室の壁に掛かる時計は、午前十時を回っている。  大学の掲示板に、イチコさんの受験番号はあっただろうか。  いや、彼女が合格か、不合格かを見届けるのは仕事ではない。  神経の病気で首から下がほとんど麻痺状態になり、人生の大半をこの病室のベッドで過ごしてきた僕には、「いっしょに待つ」ことだけしか出来ないのである。
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