290人が本棚に入れています
本棚に追加
/32ページ
食事を終え、案内された部屋は寝ていた部屋よりも一回りほど狭かった。それでもだいぶ広く落ち着かない。そうでなくても最近は一人でいる事が少なく大抵会長が傍にいたのだから。
しばらくソファに座り準備してくれていたお茶を飲みながらぼぅっとしていたら、ノックもなく扉が開き転校生が入ってきた。ノックくらいしろよ。とは思うけど、ノックして入ってくる転校生は想像できなくて、なら仕方ないかとあきらめてしまう。
「寂しがってると思って来てやった!」
なるほどコイツでも寂しいなんて思うんだなと可愛く思えたのでお茶を入れてやると「コーラ飲みたい!」などと言うのでやっぱり可愛くないと思った。
「帰りたいと思わないの?」
二人掛けのソファにだらりと座りながらお茶を飲む転校生に尋ねてみた。
「じゃあさ、お前は何で帰りたいの?待ってるヤツでもいんの?会いたいヤツいんの?」
転校生はそう苛立ったように早口で言った。こんな転校生を見るのは初めてで、何かいけない事を聞いてしまったのかと思ったけど、些細な質問だったしこんなになると予想もしなかった。
突然わけもわからずこの世界に来ていた。自分の意志ではなかったのだから帰りたいのが普通だと思っただけだ。だけれど、きっと転校生は帰れなくても良いと思っているのだろう。待っている人はいないのだろうか。会いたい人はいないのだろうか。俺を待っている人はいるのだろうか。会いたい人はいるのだろうか。考えると怖くなった。
俺一人いなくなってもきっとあの世界は何も変わらず動いているのだ。
いつも眠っているものより上等な寝具に横になり、あるはずの温もりがない事に落胆した。やっぱり、あの世界に帰りたいと強く思った。
最初のコメントを投稿しよう!