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交番であれこれ聞かれて結局昨日と同じくらいの時間になってしまった。和幸はドアを開け家に入った。
すると嫁が身重の体を押して玄関までやって来た。
内心、何事かと和幸は思った。無理して出迎えなくても良いと伝えてからはリビングで待つのが習慣である。予定よりも遅い帰宅だから怒っているのだろうか。嫁の視線は和幸の持つコンビニ袋に注がれていた。
「コレ? 衝動的に買っちゃってさ。落ち着いたら一緒に飲まない?」
和幸は袋の中身を見せた。一人だけで楽しむつもりだったのは内緒にした。ソファのことを笑い話にするのはもう少し後にした方が無難だろう。
「紙コップは必要ないんじゃない?」
やけに冷たい嫁の言葉に、和幸は「なんで買ったんだろうね」とお茶を濁すしか出来なかった。
ともあれいつまでも母体を立たせておけない。リビングへ連れて行こうと和幸は嫁の体に手をまわした。
「良い香りね」
嫁のつぶやきにギクリとした。あの眠り姫を負ぶった時に匂いがついたようだ。やましいことはしてないのだから堂々とすればいい、そうは思うもののあらぬ嫌疑をかけられるのは必至だった。
「外に出れば長時間労働、家に帰れば私のヒステリーに付き合わなきゃいけない。あなたには無理ばっかりさせて申し訳ないなって思ってた。これでも私、いつも家で反省してたのよ?」
嫁の肩が震えている。そっと支えてやろうとすると、その腕は力強く振り払われた。
「でも浮気することないじゃない! 最近立て続けに帰りが遅いのに清々しい顔してるからおかしいと思ってた! ワインだってその人と飲むつもりだったんでしょ? はっきり言いなさいよ! 他に好きな女が出来たんでしょ!」
振り向いた嫁の顔を涙が伝う。悪い予感が的中した。和幸は優しく右手を嫁の顔に持っていった。こういう時は逆なでしないように、ひたすら謝って落ち着くのを待つのが良いと経験的に知っていた。
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