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詰め寄るように話すと、陽太兄ちゃんは『あー……』と声にならないくらいの音量で呻いて、頭をガシガシ掻きながらぶっきらぼうに喋った。
「だから、それだよ。それ。『兄ちゃん』ってヤツ」
「ずっとそんな風に呼ばれてたから、いくら好きだって言われても雛鳥が最初に見たのを親だって思うみたいに、たまたま側にいた俺の事を好きだって勘違いしてるのかもって思って……」
「だから一回距離を置こうって思ったんだ。麻里も春から社会人になったし、環境も変わるし、新しい出会いがあれば気持ちも変わるかもしれないって」
「それで、一人暮らしを始めたの?」
家を出る前は、そろそろ自立しなきゃとか、時間が不規則な仕事だから家族に迷惑をかけるとか、散々もっともらしい理由を並べてたくせに。
……まさか、私の事を考えてだったなんて。
「そうだよ。それでも麻里の気持ちが変わらなかったら、ちゃんと気持ちに応えようって。年末に実家に帰るタイミングでこの本を渡そうと思って仕事仲間の装丁家に頼んでたんだ」
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