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【第一章徒歩15分のアパート】第3話
「お邪魔します」
玄関の灯りを点けると祐介は佐倉を招き入れた。彼は早々に左から右にゆっくり視線をやると溜め息を吐く。
意味深な行動に祐介は何も言えず、ただ、ゴクリという喉の音だけが辺りに響いた。
ややあって佐倉は祐介と目を合わせると、へらりと笑い「わからん」と告げた。
緊張が一気に解け、膝の力が抜ける。
「何だよ、もー」
玄関先に座り込むと、喉元に詰まっていた息と同時に文句が出た。
「部屋がおかしいのは分かるんだが、本体になり得るモノが見えない。俺が見えるラインが違うか、条件があるか・・・」
口元に手を当て、ブツブツと仮説を立てる佐倉の足元に置かれた荷物を手持ちの物と纏めると、玄関からすぐの台所に置いておく。
何にせよ、夜も更けているので、遅くまで起きているのは健康、心霊現象、二重の意味で良くないだろう。
客用の布団なんて上等な物はないので、夏に向けて出していたタオルケットは自分用に、厚みのある掛け布団を彼に用意する。
買ってきたばかりの飲み物を二人分部屋の真ん中のローテーブルに置くとベッドに腰掛けた。
悪霊と意を決して闘うイメージをしていた為、日常の延長と変わらないやり取りに間が抜ける。
「佐倉が見えないって事は、やっぱり部屋に原因はないんじゃない?」
「それはないと思う」
さらりと告げると佐倉は出された飲み物に口をつけた。
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