0.優しい追放

2/6
5224人が本棚に入れています
本棚に追加
/3000ページ
 *・*・*  昨日の事だった。  私が、パーティーの雑用をいつものようにこなしていると、リーダーのマシュランに呼ばれたのは。 「チャロナ、今少しいいか?」 「なぁに? マシュラン」  雑用はいつもの事。  レベルは悪くなくとも、不適性なのかポーションがうまく作れない私にとって、料理や洗濯はいつもの事。  その日も、野営地で炊事をしてる途中だった。 「…………その、非常に言いにくいのだが」  労いとは違う、決断に満ちた言葉。  それだけで、私はある事を理解した。そう思ってから、鍋をかき回してたおたまの手を止める。 「……なんとなく、言いたいことわかるよ」  私がそう言えば、マシュランから息を飲む音が聞こえる。  もうほぼ、答えに近かった。  だから、私は何も言わずに彼の言葉を待つ。 「…………すまない。パーティーのためだ」  顔を見ずともわかる。  そよ風よりすこし強い風の流れを受けたことで、マシュランが私に向かって初めて腰を深く折った事を。 「……明日、でもいい? 最低限の身支度はしたいから」  拒否権がなくとも、それだけはしたかった。  さすがのマシュランもそれだけは頷いてくれ、私は翌日いくらかの謝礼金のようなのを渡されてから、二年は在籍してたパーティーを抜ける形になったのだ。 「皆、笑ってくれたらよかったのに……」  だいぶ離れた森の中に着いてから、私は彼らの別れ際を思い返した。
/3000ページ

最初のコメントを投稿しよう!