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殺気立って、聖の隣に立つ男を睨んでいる運転手を制して、龍大は言った。
「手を出すな、中津川を運んでやれ」
中津川でさえ簡単に転がされたのだ。
運転手がやられてしまったら、帰る手段がなくなる。
「家には連絡してねえだろうな?」
「いえ、その…」
チッ、と龍大は舌打ちした。
めんどくさいことになった。
すぐに応援が駆けつけてくるかもしれない。
聖にあんまり極道の男たちに囲まれる自分を見せたくなかった。
しかし、今ここから立ち去ったら、応援の奴等に聖まで何かされてしまうかもしれない。
「大の男を二人も引き連れて、どこのボンボンだっつの、お前のトモダチとやらは」
そう言い捨てたのは、聖の横に立つ男だ。
サッと顔色を変えたのは、中津川を背負って運びかけていた運転手だ。
「てめぇ、誰に向かって…っ!」
「黙ってろ、いいから行け」
龍大は、ヨロヨロと立ち上がる。
立ち上がってみると、その男は彼よりも小柄だった。
しかし、その鋭い眼光は、兄にも劣らない迫力がある。
背筋がヒヤリとするほどの。
そして。
そうやってマジマジと見ると、そいつの面差しは聖にそっくりだったのだ。
まさか。
「聖、そいつ、お前の、何…?」
「何って…」
聖は一瞬、気まずそうに口ごもった。
チラリと横に立つ男に視線を流す。
「…父親だけど?」
それを聞いて、フン、と鼻を鳴らした男…市敬が、実は結構上機嫌になったということがわかる人は、そこにはいなかったけれども。
父親って、若すぎんだろ?!
思わず龍大はそう叫びそうになった。
近くで見ても、その男は彼の兄よりも若く見える。
彼の兄、龍之介がかなり老けて見える男なのを差し引いても、だ。
だけど、二人が並んで立っているところを見れば、親子でなかったとしても何らかの濃い血の繋がりがあることは間違いない。
それぐらい、似ているのだ。
つーか、俺、聖の親父にいきなり殴りかかったのかよ?
ヤバくね??
今更、龍大は血の気が引いていく。
何やってんだ、俺。
聖が男と援交してんじゃねえかって疑って、ヤキモチ妬いて思わずつい、って?
そんなこと、聖に知られたら、ぜってぇ軽蔑される。
「タツ」
聖の声が、彼の名を呼ぶ。
「そんで、お前、今日は何しに来たんだよ?」
なんでいきなり、このひとに殴りかかったりしたわけ?
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