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宇賀神龍大は、ここのところ、少し苛々している。
中学に上がって、彼は身長がぐんぐん伸び始めて、まだ子どもらしさが抜けない同学年の中1男子の中ではダントツの大きさを誇っている。
彼の兄も190センチを超える長身だし、父も180センチは超えているので、間違いなくまだ伸びるはずだ。
「あん、タツヒロぉ…もう一回して?」
甘えるような媚びた甲高い声とともに、背を向けてベッドから立ち上がろうとする彼の背中に、赤い爪を纏った白い手がすがりつく。
チッ、と龍大は舌打ちした。
「うっせぇな、お前みたいなババア何回も相手にできっかよ」
親父の命令だから抱いてんだ、勘違いすんな。
「もう、酷いこと言うんだから…タツヒロに言わせたら女子高生だってババアでしょうに」
そのツレナイとこも可愛いけど。
ベッドの上でフフフと笑う女は、龍大にそんな扱いをされることには慣れている。
だから、ベッドを去る背中を追うことを諦めて、サイドテーブルから煙草を取った。
龍大の父親は、関東の裏社会に君臨する暴力団宇賀神会のトップだ。
年の離れた兄が、若頭としてその下で組を取り仕切っている。
兄には妻も子どももいない。
そして、この先も子どもを作る気はないらしい。
たった一人の愛する相手が、幼なじみの男なんだそうだ。
そのせいで、兄の次の後継者は龍大と目されている。
こんなふうに女と寝て性技を学ばされるのも、護身術やら武道やらの稽古をしなくちゃならないのも、その他普通の中学生には縁のないようなあれこれを教え込まれるのも、後継者教育とやらのためだ。
アホクサ、と龍大は思っている。
今どき極道なんて、流行んねえだろ。
小さい頃は、憧れを通り越して崇拝するほど大好きだった兄も、今は、ただのホモの変態じゃん、と苛々の原因の一つでしかない。
なんで俺が跡継がなきゃいけないのか。
なんでこんなつまんねえ家に生まれてきたのか。
彼は、腹の底から沸き上がる小さな苛々を、そうやって最近、家にいるときはいつも持て余している。
それは、思春期特有の社会や大人への反抗心からきているものなのかもしれない。
だけど、極道の男どもを取りまとめて従わせることができるぐらい恐ろしい迫力を持つ父や兄に逆らう勇気はない。
だから、言われたとおり、いろんな後継者教育をしぶしぶ受けてはいるけれども。
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