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それは、そんな聖に追い討ちをかけるような出来事だった。
その日、帰宅した聖は、鍵を開けようとしてギョッとした。
鍵は既に開いていたのだ。
朝、鍵をかけ忘れたか?
一瞬彼はそう思ったけれども。
一人暮らしになって、戸締まりには物凄く慎重になった聖だ。
その次に浮かんだのは、母親が帰ってきた、という希望。
聖は、勢いよくドアを開けた。
「母さん?!」
しかし、目の前に広がっていた光景に、彼は凍りつく。
家の中は、空き巣に物色されたようにめちゃくちゃに荒らされていた。
警察…!
慌てて、父に買って貰ったスマホを取り出して、しかし、ハッと思う。
警察とか呼んで、一人暮らしがバレたらヤバい。
どうしよう、とパニクる頭で、とりあえず父親に電話しようとした、そのとき。
「なんだ、小僧」
背後から、いきなり突き飛ばされた。
彼の手からスマホが転がり落ちて、散らかった様々なものの中に埋没してしまう。
「ああん?南美の息子じゃねぇか」
細々とした物が散乱した中に突き飛ばされたので、尖った物やら何やらが刺さったり引っ掛かったりして、中々起き上がれない聖がもがいていると、覗き込むように上から覆い被さってきた男の酒臭い息が、そんな言葉を吐いた。
「おい、てめえの母親はどこだ?」
「しっ、知るかよっ!ずっと帰ってきてねえし、こっちが知りてえんだよ、そんなの!」
男は疑うような顔をした。
それはそうだ、中学生が一人でずっと暮らしているなんて、普通は思わない。
「あんな薄情な母親、庇うことねえんだぞ?言えよ」
それとも、痛い目みてえのか?
男はすうっと目を細めて、残忍な顔をした。
酔っているようだし、殴られるぐらいならまだしも、殺されてしまうかもしれない。
さすがの聖も、恐怖に顔が強張るのを感じた。
怯えてるのを悟られたくないのに、身体が勝手に震え出す。
と、男の顔が、下卑た笑いに変わった。
「南美がいるときは生意気なガキだとしか思わなかったけど、そうやって怯えてりゃあ可愛いじゃねえの」
あいつが勝手に逃げていってから、ご無沙汰なんだよな。
南美はケツの穴とか絶対許さなかったから、母親のツケ、息子に払って貰うのもありか?
酒臭い息で、ニヤニヤとそんなことを言いながら顔を近づけてくる男に、聖はゾッとした。
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