3.

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それは、そんな聖に追い討ちをかけるような出来事だった。 その日、帰宅した聖は、鍵を開けようとしてギョッとした。 鍵は既に開いていたのだ。 朝、鍵をかけ忘れたか? 一瞬彼はそう思ったけれども。 一人暮らしになって、戸締まりには物凄く慎重になった聖だ。 その次に浮かんだのは、母親が帰ってきた、という希望。 聖は、勢いよくドアを開けた。 「母さん?!」 しかし、目の前に広がっていた光景に、彼は凍りつく。 家の中は、空き巣に物色されたようにめちゃくちゃに荒らされていた。 警察…! 慌てて、父に買って貰ったスマホを取り出して、しかし、ハッと思う。 警察とか呼んで、一人暮らしがバレたらヤバい。 どうしよう、とパニクる頭で、とりあえず父親に電話しようとした、そのとき。 「なんだ、小僧」 背後から、いきなり突き飛ばされた。 彼の手からスマホが転がり落ちて、散らかった様々なものの中に埋没してしまう。 「ああん?南美の息子じゃねぇか」 細々とした物が散乱した中に突き飛ばされたので、尖った物やら何やらが刺さったり引っ掛かったりして、中々起き上がれない聖がもがいていると、覗き込むように上から覆い被さってきた男の酒臭い息が、そんな言葉を吐いた。 「おい、てめえの母親はどこだ?」 「しっ、知るかよっ!ずっと帰ってきてねえし、こっちが知りてえんだよ、そんなの!」 男は疑うような顔をした。 それはそうだ、中学生が一人でずっと暮らしているなんて、普通は思わない。 「あんな薄情な母親、庇うことねえんだぞ?言えよ」 それとも、痛い目みてえのか? 男はすうっと目を細めて、残忍な顔をした。 酔っているようだし、殴られるぐらいならまだしも、殺されてしまうかもしれない。 さすがの聖も、恐怖に顔が強張るのを感じた。 怯えてるのを悟られたくないのに、身体が勝手に震え出す。 と、男の顔が、下卑た笑いに変わった。 「南美がいるときは生意気なガキだとしか思わなかったけど、そうやって怯えてりゃあ可愛いじゃねえの」 あいつが勝手に逃げていってから、ご無沙汰なんだよな。 南美はケツの穴とか絶対許さなかったから、母親のツケ、息子に払って貰うのもありか? 酒臭い息で、ニヤニヤとそんなことを言いながら顔を近づけてくる男に、聖はゾッとした。
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