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「相変わらず仰々しい登校じゃん、タツ」
車から降りて、護衛役の深々としたお辞儀に見送られた龍大に、からかうような声がかかる。
「うるせ。そーゆーお前は久しぶりじゃん?何日サボってたんだよ、聖」
龍大は、声をかけてきた同級生を振り返った。
柳沼聖は中学に入って意気投合した、龍大の唯一の気のおけない友人だ。
付き合いはまだ二、三ヶ月と浅いけれども、今まで適当に付き合っていたどの友達よりも気が合う…と龍大は勝手に思っている。
「おっ…おお?お前、えらいバッサリ髪切ったな」
父のいない聖は、忙しく働く母親に面倒をかけまいとしているらしく、床屋に行きたいということも言い出さずにいるため、いつもボサボサの伸び放題な髪型をしていたが。
「あー、まあ、色々あってな」
龍大は、少しドキッとする自分に驚いていた。
髪を切った聖は、今まで隠れていた顔がスッキリと見えていて、なんか。
「つーか今日体育あんだっけ?超だりぃ…今日まで休んどきゃよかったかな」
聖のほうは、髪を切ったからといって何も変わらない。
ぶつぶつと文句を言いながら、龍大を見上げた。
聖はどちらかというと小柄なほうだ。
学年一背の高い龍大を見るとき、いつもそうやって見上げる形になる。
「なあ、体育サボんねぇ?」
龍大が、聖と仲良くなりたい、と思った最大の理由が、その強気な瞳だ。
髪に隠れているときから、その強い意思の浮かぶ瞳がかっこいいと思って、彼のほうから聖に話しかけたのが仲良くなるきっかけになった。
「体育楽しくね?俺、勉強よりいーけどなぁ」
龍大が何の気なしにそう答えると、聖は、ガキだなお前、という顔をした。
龍大は、少し焦る。
そんなことを言う聖は、体育が苦手なわけではない。
むしろ、その小柄な身体をいかした敏捷な動きで、スポーツ万能というイメージだ。
しぶしぶ実技の授業に出ているときは、やる気はないくせにかっこよく競技をこなしている。
だから、同じ気持ちなのではないかと思ったのだが、できるのとやりたいのは違うらしい。
聖は、その歳の少年にしては、かなり内面が大人びている。
いつもどこか、一歩引いて物事を見ているようなクールなところがあって。
それは、彼の家庭環境にも由来しているのだろうけれど。
とにかく、彼は、運動ができるからと言って楽しそうに体育の授業に出てはしゃいだりしないのだ。
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