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「あー、そうだよな、着替えたりすんのもめんどいしな、やっぱ俺もサボろうかな?」
龍大が慌ててそう言うと、聖はプッと吹き出した。
「なんでも俺に合わせなくていいのに、タツって面白えよな」
お前が出てぇなら、俺もしゃあねぇから出てやるよ。
聖はそう言って笑った。
その笑顔に、また龍大はうっかり見惚れそうになった。
笑う聖の横にいるだけで、そのひとがいなかった二週間のイライラが、嘘のように晴れていく。
楽しい、と龍大は改めて実感する。
あの窮屈な家で、つまらねえことばっかり学ばされるよりも、ずっと学校で、聖の隣で笑っていられたらいいのに。
というか、学校から帰った後も、本当は一緒に遊んだりしたい。
だけど。
聖は、龍大が極道の家の子だと知っても、全然怯えたりしなかった。
ナニソレ漫画みてぇ、ウケる、と笑っただけで、フツーに変わらず友達付き合いを続けてくれている。
でも、自宅に呼ぶのは、さすがに引かれそうで呼べずにいる。
彼の自宅は、屋敷と呼ぶのに遜色ない規模で、その中にはいわゆる舎弟たちも住み込みでいたりするから、強面のオッサンたちが家の中をウロウロしているのだ。
龍大を見れば、そんな強面のオッサンたちが「坊っちゃん」と呼び、丁寧に頭を下げる。
聖はそんなこと気にしないだろう、という気持ちもあるけれども、もしも、それを見て、聖が怖がって距離を取るようなことになったら。
そう思うと、自宅に招くのはかなりの勇気がいるのだ。
かといって、自宅以外の場所で遊ぼうと誘っても、聖はそれこそ速攻で断ってくる。
彼の家は、夜の仕事をしている母親との二人暮らしで、母親はそれなりの稼ぎはあるらしいけれども、どうにも惚れっぽく、すぐに男に貢いでしまうのだそうだ。
だから、彼は、カラオケや映画やゲームセンターなどに行こうと誘う龍大には、「金がねえから無理」とバッサリなのだ。
極道の家に生まれたという特殊な環境ではあるけれども、龍大はいわゆるお坊ちゃんに近い。
当然、生活や金銭で苦労するなんてことは、それまで想像したことすらなかった。
だから、龍大としては、自分がお金を出してでも一緒に遊びに行きたいのだけれども、一度それを匂わせた発言をして、聖に激怒されて以来、その手の誘いは一切していない。
そんなわけで、今のところ、龍大が聖に会えるのは学校でだけなのだ。
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