1-訪問者

3/4

3553人が本棚に入れています
本棚に追加
/169ページ
インターホンの画面には、女の人がうつっている。 休日で鳴るインターホンは、ほぼ宗教や新聞などの勧誘か、近所の方くらい。 今回もどうせ前者だろうと、はーいと応対すると。 「ご主人さまはいらっしゃいますか?」と女性は答えた。 うん? 宗教じゃないのかな? 夫に、なんか女の人がご主人いるかって、来てるけど?というと、ソファーに転がっていた夫が気だるそうにインターホンを覗きにくる。 「知らない。俺はでないぞ、寝ていると言って」と言うので、ドアをちょっと開けて、顔だけ出して今寝ているので…とそのままを伝えた。 私はこの女性が何をしに来ているのか知らないのに、いつもの宗教か保険の勧誘?とにかく何かしらの営業と思い込んでいるものだから、そう言ったら諦めて帰るものだと思っていた。 しかし、女性は帰らなかった。 「あの、先日タクシーでお金が無くって前に並んでいたご主人にお借りしたんです。なのでお返しに来ました」という。 「そうですか。今寝ているんですが…」 帰ってから思ったのだが、わざわざありがとうございます。寝ているので私が受け取ります。とでも言って、自分が受け取れば良かったのだが、頭の回転の悪い私はモゴモゴ答える。 そんな私とは正反対に、女性はちょっと語気を強めて、「お金を借りるのに、お返しする約束の意味もこめて、ご主人に私のカードを預けたんです。だからそちらを返してもらわないと…」と続けた。 もう、私は何がなんだかわからない。 化粧も落とし、部屋着の私は外にも出られないし、バタバタと夫に事を報告しに行く。 寝ていると言ってもダメだし、ご主人にカードを渡したからといって、ご主人を出せって言う!よくわからない! 夫はやっと重い腰を上げて、外へ出て行く。
/169ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3553人が本棚に入れています
本棚に追加