小太郎

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遥か遠い前世の記憶だ。 時代は中世ヨーロッパ。オレは1人の傭兵であった。 当時、世は戦乱の真っ只中。小中規模の戦が毎日のごとく続いていた。 いつ死んでもおかしくない。そんな状況の中で、オレは彼女と出会った。 名前はセリーヌ。街でパン屋を営む商人の1人娘だ。商人の子の割には口数が少なく、大人しい性格の娘だった。しかし、黙々と働く中で、時折見せる笑顔が印象的だった。 優しさが溢れ出る慈愛に満ちた表情。一目見た瞬間。 オレは恋に落ちた。 彼女もまた同様だった。 オレ達は時間を割いては逢瀬を重ね、愛を育んだ。その時間は、まさに永遠と呼べるほどだった。 だが、悲劇は訪れる。 これまで街外れで勃発していた戦火が、突如、セリーヌのいる街中に降ってきたのだ。街は瞬く間に火の海と化し、被害は尋常ではなかった。 オレが駆けつけた時には、セリーヌは既に虫の息だった。 ーー兵士様。 彼女の最期の言葉が今も胸の中に甦る。 ーーわたくしは、きっと生まれ変わります。生まれ変わり、必ずや、あなた様の元へ戻って参ります。ですから、その時はどうか、わたくしの手を取って下さいませ。
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