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「はい、お世話になります。いつもすみませんねぇ」
バスが停車して開いた扉から、おばあさんはニコニコしながら乗り込んできた。
「ヤスケさんところでいいんけ」
「はいはい。お願いします」
どうやら常連さんのようである。手をあげて止めて、目的地まで運んでくれるなんて、まるでバスというよりタクシーだ。
その後も二回ほど
「止まりまぁす」
と、バス停ではない場所でバスは停車し、二人のおばあさんが乗車してきた。三人とも顔見知りらしく、ニコニコと挨拶を交わしている。
「ごめんなさいねぇ、お急ぎだったんじゃない?」
最後に乗って来たおばあさんに、声を掛けられた。
「いえ、時間に余裕を持って出て来ているので大丈夫です」
バス停がなくても乗りたい客がいれば停車して、降りたい場所で降ろしてあげる。そんな暗黙のルールがこの地域ではあるのだろう。郷に入っては郷に従え。よそ者の私が目くじらを立てることではない。規則に縛られて融通がきかないよりは、地元の人にとってはよほどありがたいはずだし、これも田舎ならではの良さなのだろう。
訛りがきつくてほとんど理解不能のおばあさん達の会話をBGMに、そんなことを考えながらふと窓の外を見やると ――
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