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バスを停めるな
その日私は、都心から二時間ほど電車に揺られて、ローカル線のとある駅に降り立った。
食品関連の業界新聞記者として、若い人たちが中心となって珍しい西洋野菜やハーブを生産しているという農園を取材するのが目的だった。
農園までは駅からバスで約五十分。一時間に一本しか出ていない上に、繁忙期で迎えに行くことができないと取材相手の代表者に電話口で詫びられたが、田舎道をのんびり旅行気分で行くのも悪くないと、電車の到着時間に合わせて乗客を待っていた古びたバスに乗り込んだ。
数人いた乗客が次々と下車していき、三十分ほど走ると私ひとりになった。
車窓の風景も、商店街から住宅地、そして一面の田畑に変わっていく。渋滞も信号もない、田舎の一本道。行き交う車もほとんどない。
(のどかだなぁ。こんなところで暮らせたら、健康にはいいだろうなぁ)
そんなことを思っていると、
「お客さぁん、すみません。ちょっと止まりますねぇ」
運転手さんが声を張る。乗客は私だけなのだから、きっと私に言っているのだろう。どうしたのかと前方を見ると、路肩に畑仕事を終えたらしき大きな荷物を背負ったおばあさんが、バスに向かって手をあげている。
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