第一章 英国カントリー・ハウスは工事中

1/7
46人が本棚に入れています
本棚に追加
/329ページ

第一章 英国カントリー・ハウスは工事中

 緩慢な起伏をくりかえす緑色の地表を、白金みたいな六月の太陽が照らしていた。眩暈のするような、果てしなく続く田園風景を、懸命に自転車を漕ぎ進む少女の姿があった。  十九世紀末、英国ノーサンプトン州。  牧草地を走る、生垣に挟まれた田舎道である。  少女は灰色のドレスに黒い麦わら帽をかぶり、髪は淡い金髪で、後ろで束ねて三つ編みにしていた。小柄な身体はでこぼこ道で飛び上がり、風が吹けば、麦わら帽を片手で押さえた。  彼女の名はジューン・ライト。ブルームフィールド准男爵家の邸宅、コッツワース屋敷のメイドである。ジューンは数日前から響き始めた槌音の源を目指していた。  牧草地と畑を通り過ぎ、厳めしい鋳鉄の門をくぐって、ジューンはまるで砂糖で塗り固めた四角いウェディングケーキのような、白亜の邸宅に辿り着いた。周囲には木材が運び込まれ、そこかしこに工事作業員の男たちがたむろしている。 「あのぉ……すみません! 改装工事でしょうか?」  ジューンは一番近くにいた工事作業員に話し掛けた。 「そうだけど?」     
/329ページ

最初のコメントを投稿しよう!