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ハッキリと聞こえた瞬間、ドタドタと走り回る音と静止する女性の声で目が覚めた。
昨日と同じことが繰り返されているのだろうが、今はそんなことを気にしてはいられない。
今見た森は昨日の木の間からいける場所だろう。
行かなければいけないという焦燥感に駆られるまま布団から飛び出す。
着替えて適当に顔を拭って階段を駆け下り玄関に躍り出た。
「夏菜子!どうした?!」
「ごめん、ちょっと出かけてくる。」
気づいた父が声をかけてきたが構っていられない。
私は振り向くことなく一直線に昨日の木のところまで駆け出した。
軽く息切れをしながらやってきて、夢で見たように丈の高い草を分け入っていく。
朝日は葉に遮られて薄暗い。
道なき道を進み続けると、夢の中で見た開けた場所までやってきた。
そこは一際薄暗く鬱蒼としていたが、一つだけ目を引くものが会った。
真っ直ぐ先には低い木があり、朝露に濡れてはいるが光もないのに輝いていた。
惹かれるように近づくと、眼前の一部が揺らめいていく。
その揺らぎは段々人の形になっていった。
運動靴を履いてスラリと伸びた細い足、それは紛れもなく夢で見た姿だった。
「わた、し…?」
フリルのブラウスに赤いチェックのスカート、そしてランドセルを背負っている少女は紛れもなく小学生の時の私だった。
「やっときた、まってたよ。」
その声は紛れもなく夢で呼びかけていた声だ。
不可思議なことが起こっているが、少女に嫌悪や恐怖はなく、むしろやっと帰ってきたような安堵感さえある。
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