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見えた光景に思わず右手を引いてしまうが、幼い私が手を握ってきた。
「にげないで。」
強い強い視線だ。
「わたしはもうだいじょうぶだよ、だからここにこれたんだから。」
そうだ、もう迷子でいたくないんだ。
幼い私に負けないように強く頷き返すと二人で目を瞑った。
次に見えてきたのは先程と違って通学路だ。
夕日が傾いているから帰宅途中だろう。
けれど家に帰りたくなくて、両親にも祖父にも会うのが怖くて、朝も逃げるように学校にやってきたんだ。
重い足取りの中、靴の中に違和感を感じ立ち止まる。
小さい石が入り込んでしまったのだろう、それを取るために木に手をかけた。
その時、木々の間に隙間があるのを見つけてしまった。
子供の目線じゃなければ気づかなかったであろう細い隙間。
家に帰るのが嫌だった私は周りにある丈の高い草を分け入ってここに来たんだ。
開けた場所に出た幼い私の目の前には、今と同じ低い木がある。
木を見た瞬間、怖くてどうしたらいいかわからない気持ちが何故かここで溢れてきてひたすらに泣いた。
泣いて、泣いて、泣きじゃくった。
そして願ってしまった、忘れたい、あんなの知りたくなかった、と。
すると目の前の木がフワリと光る。
『わかった。』
どこからか聞こえた声、同時に私の中からビー玉のようなものが木にゆっくりと移る。
『ここで、まってるから。』
驚く間もなく辺りが強い光に包まれ、気づいたら森の外にいた。
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