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何が起こったのかわからず辺りを見渡すがいつもの帰宅路で、そして私は…。
「忘れたんだ。」
怖かった両親の喧嘩と止めない祖父。
仲が良い三人の関係が崩れるのを受け入れられなくて、心ごと壊れてしまうようで怖かった。
だから私は記憶をなくすという方法で心を守ったんだ。
けれど今は違う。
「今はこれがいる。」
きっとみんな待っていてくれたんだ、私が過去から今に来るのを。
これで父と話せる、薫さんと母を比べなくてもすむ。
「そうあとはかえるだけだよ。」
そう、帰って話すだけだ。
幼い私の言葉に頷くと、少女は役目が終わったと言わんばかりに踵を返し低い木の元に向かう。
「ねぇ。」
私が呼びかけると幼い私は不思議そうな顔で振り返った。
「待っててくれてありがとう、もう忘れないから。」
あなたのことも。
言うと幼い私は嬉しそうに笑って幻のごとく消えていった。
低い木はもう光っていなくてその辺りにある木と同じになっている。
私は一つだけお辞儀をしてもと来た道を戻るために歩き出した。
帰ったらたくさん話すことがある。
そして言わなければいけない。
待っていてくれてありがとう、と…。
やっと私は過去から今に歩み出せたのだから。
これからのことに思いを馳せていると森の出口が見えてきた。
そして私は鬱蒼とした森から光の中へ歩みだした。
END
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