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辺り一面の木、木、木…。
陽の光が差し込むことを拒否するかのような葉の屋根。
人が通った跡どころか獣が通った跡すらない枯れ葉と苔でできた道。
一面に広がる丈の高い草をかき分けながら私は歩を進める。
これは夢だ。
そう分かる夢を明晰夢と言うと誰かに教えてもらった事がある。
しかもこの明晰夢はほぼ毎晩の如く見ている。
夢の中の私は必ずランドセルを背負っていて、少女らしい可愛いフリルのブラウスと赤いチェックのスカートを履いている。
記憶が正しければ小学三年生の頃だろう、よくこの服を着ていたのを覚えている。
ここまではいつもの明晰夢なのだが、今日は少しだけ違っていた。
今歩いているこの森の中は初めて見る場所だ。
いつもは私の記憶にある場所で、小学校までの道のりや、昔両親と一緒に暮らしていた祖父の家だったりする。
こんな場所あっただろうかと考えてみても全く覚えがない。
その間も幼い私は奥へ奥へと進んでいく。
前も後ろも木々に阻まれ、進んでいるのか戻っているのかわからなくなっていた時だった。
…て…よ…。
小さな声が聞こえ、引き込まれるように先へ…。
行こうとした瞬間、鳥の大きな鳴き声で目が覚めた。
ゆっくりと開いた目線の先に見えるのは古い木目の天井。
横を向けば黄ばんだカーテンから差し込む光。
ゆるりと覚醒していく頭で思い出す、そうだ祖父の家に来ていたんだ。
中学三年になり、受験というもののせいで元気がなくなってきたと思った父が、ゴールデンウィークに祖父の家に行こうと提案してくれた。
祖父の家は小学校を卒業するまで両親と祖父と一緒に四人で暮らしていた家だ、だから父は少しでも私が元気になると思ったんだろう。
理由は受験ではないけれど…。
上体を起こし布団から出ようとしたら下の階からドタドタと忙しない足音が聞こえてきた。
そしてその足音を静止する女性の声が続いて聞こえてくる。
ふと時計を確認するとすでに九時を回っていた。
小学生の男の子じゃ元気に走り回っていても仕方がない時間で、むしろ私が寝過ごしてしまった。
今度こそ伸びをして布団から抜け出しカーテンを開ける。
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