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残された私は祖父と一緒にもう一度庭を眺める。
「本当に行かなくて良かったのか?」
隣りにいた祖父が問いかけてきた。
何の気なしのその質問が胸に刺さる。
「いいの、外あんまり好きじゃないし…。」
無理矢理笑うと祖父はそれ以上言及せずにいてくれた。
静寂が戻り、ふと祖父は薫さんのことをどう思ってるのかと疑問が浮かんできた。
先程も会釈だけで挨拶はまともになかったし、ここに来たときもしっかりとした挨拶を見たことはない。
それに私の産みの母と祖父との関係は良好だった、だからこそ父の再婚相手をどう思ってるのか気になった。
「ねぇおじいちゃん。」
「どうした?」
「薫さんと初対面だよね、どう思う?」
具体的にどう質問したらいいのかわからず曖昧に聞いてみる。
すると祖父は少し驚いたようにこちらに顔を向けた。
「薫さんとは初対面ではないぞ。」
「えっ…?」
「何だ、お父さんから聞いてないのか。」
聞いていない、とはどういうことだろうかと今度は私が驚く番だ。
瞠目して祖父を見ていると更に驚くことを言ってきた。
「二人が再婚するときに一度挨拶に来ておるよ。」
ガンッと鈍器で頭を殴られた感覚がする。
そんな事一言も聞いたことないし、父が薫さんと一緒に祖父の所に来ていた事すら知らない。
私の見ている範囲でもみんなどんどん変わっていって、私の知らない所でも何かが進んで変わっていっている。
私だけが過去に置いてけぼりにされているかのような感覚に体が動けないでいる。
祖父は何ということもなく庭に視線を戻し言葉を続ける。
「薫さんも器量のいい女性で、総一くんも良い子だったからな、最初はどうなるかと思ったが皆仲良くやっているようで安心した。」
祖父の言う皆の中に私は入っていないと叫びたい衝動を必死に抑え込んだ。
庭にいた小鳥が一際大きく鳴いて飛び立っていった。
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