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「夏菜子ちゃん?!」
私の名を呼ぶ女性の声が聞こえて一気に視界がクリアになる。
ゆっくり目を開けると予想より近くに地面が見えた。
どうやら耐えきれず木の下でうずくまってしまっていたようだ。
「夏菜子ちゃん!夏菜子ちゃん!大丈夫?!」
必死に駆け寄ってきて呼びかける声に顔を上げる。
「薫さん…?」
眼の前に可愛らしいエコバッグを持った薫さんがしゃがんで私の顔を覗き込んできていた。
そういえば買い物に行くと出ていったなと思い出す。
ぼんやりとしていると気分が悪いと勘違いされたのか、薫さんはエコバッグを地面に置いて私の肩を揺すってきた。
「大丈夫?救急車呼ぶ?!」
「大丈夫…少し、目眩がしただけだから…。」
このままでは大事になりそうだと慌てて取り繕う。
それでも心配なのか戸惑うような視線を送ってくるので、もう一度大丈夫だと言いながら立ち上がった。
先程の視界の歪みは驚いたが、そんなことはなかったかのように今は全くなにもない。
あれは何だったのかと思っていると、薫さんも立ち上がってこちらに向き直った。
「今朝もあんまり元気じゃなかったみたいだし、本当に何かあるなら病院行きましょうね。」
「うん、わかった。」
元気じゃないのは誰のせいなのかと、見当違いな八つ当たりを心の中でした。
こんなに優しく接してくれるのにやはり私は尖った感情を向けてしまって自分に嫌気がさす。
外でも家でも結局は同じことなのだと胃の底に重いものを抱える感覚に陥る。
過去に迷子のままの自分をどうにかしないといけないのはわかっているが、どうしたら良いのかは全くわからない。
遠くで夢の声が聞こえた気がしたが、靴に入り込んだ石の痛みでかき消えていった。
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