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「もしもし?」
『お母さん?』
一日振りに聞く、真の声。その向こうに、亮の声も聞こえる。従兄妹たちと楽しそうな声。
「真? どうしたの?」
『お母さん、こっちに来る?』
「え?」
『おばあちゃんが温泉に泊まりに行こうって言うんだけど、近くに駅がないからお母さんはどうする? って……』
「温泉? どこの?」
『おばーちゃーん。どこの温泉ー?』
『真、ちょっと代わって』
『俺もお母さんと喋るー!』
『亮、後で代わってあげるから』
亮が口を尖らせる姿が想像できる。
『もしもし? お姉ちゃん?』
「ごめんね、子供たち任せっ放しで」
『ううん。それより、来れそう? 瑛太の友達家族が行くはずだった温泉に行けなくなっちゃって、予約を譲ってくれたから行こうって話になったんだけど、駅から遠いんだよね。だから、お姉ちゃんが来れそうなら迎えに行くから』
「タクシーで行くからいいよ」
『一時間近くかかるから、結構な金額になるよ?』
そんなに遠いなら、迎えに来てもらうのも申し訳ない。
迎えに来るとしたら、土地勘のある妹か妹の夫の瑛太くん。子供たちがいるから、きっと瑛太くん。
『お姉ちゃん、お母さんから聞いたけど――』
一瞬、喧騒が聞こえなくなった。
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