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「誰が困るんだよ」
智也が苛立っているのがわかる。
『何に』苛立っているのかわからないけれど。
「お互いに困るでしょう? 年上のバツイチ子持ちと噂になるのも、子供がいるのに年下上司と噂になるのも」
「俺は困らない」
智也が右にウインカーを上げた。信号に右矢印が表示され、右折する。
映画館に行くなら、直進。
機嫌を損ねて、帰るつもりなのだと思った。
だから、それ以上は口を開かなかった。
けれど、右折してからしばらく直進し、マンションへの道から遠のいていく。
「課長? どこに行くんですか?」
「人に見られなきゃいいんだろ」
「え?」
まさか、と思った時には駐車場の入り口を通過していた。
「課長!」
「なに」
「なにって――」
ラブホテル。
海沿いに建つ、近辺では有名なホテル。
智也は空いているスペースに車を停め、無言で降りた。
なんで、急に、こんな――。
降りるに降りられずにいると、助手席のドアが開いた。
「降りろ」
「課長、どうして――」
「見られたくないんだろう?」
「それは――」
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