6847人が本棚に入れています
本棚に追加
「いい年して、ラブホテルで言い争ってたら、恥ずかしいぞ」
『恥ずかしい女だな』
忘れたい声が、言葉が、脳内で響く。
怖い。
有無を言わさぬ口調。
見下すような視線。
智也は元夫とは違うのに、逆らえない。
私はシートベルトを外し、車から降りた。黙って智也の後に続く。
エレベーターでフロントに上がり、タッチパネルで部屋を選ぶ。再びエレベーターで選んだ部屋に上がる。
その間中、私は俯いていた。
智也がどんな部屋を選んだのかも、何階の部屋を選んだのかも、わからない。
ただ、黙ってついて行くだけ。
二年前までの地獄の再現のよう。
「ごめんなさい……」
部屋に入るなり、思わず口をついた。
条件反射。
『謝るしか出来ないとか、馬鹿なのか?』
それでも、私には謝るしか出来ない。
「ごめんなさい…………」
「なにが?」
「口答えを……して……」
「彩、顔を上げろ」
そう言われて、私はゆっくりと顔を上げた。目の前の窓の向こうには、一面の海。
波が打ちつけられる音が聞こえる。
「ラブホにしてはすげーな」
最初のコメントを投稿しよう!