1 五歳年下の上司

12/15
前へ
/444ページ
次へ
「どうぞ」と、堀藤さんが俺の言葉を遮って、課長にカップを差し出した。 「ああ」と言って、課長がカップを受け取る。  そのままカップを口に運び、眉をひそめた。 「あっま!」  溝口課長はブラック派。それは、彼女も知っているはずだ。 「なんだ、これ!」 「イライラ……する時は、糖分を摂ると落ち着くそうです」 「勝手な事されたら、余計に苛つくわ」  怒りの矛先が、彼女に向く。 「あんたも俺を怒らせたいのか!」  彼女が、課長に怯えているのは隠せていない。課長もわかっていて、凄んでいる。  いじめであり、パワハラ。 「あんな……風に怒鳴るのは……良くないと思います」と、彼女が声を絞り出す。  堀藤さんと働いて一年弱だけれど、口答えや意見をするのは初めてだと思う。 「怒鳴られたくなきゃ、怒鳴られないような仕事をすりゃいい」 「誰も……怒鳴られたくてそうしてるわけじゃないと……思います」 「はあ?」と、課長が馬鹿にしたように聞き返す。 「一生懸命……やっても……ミスしてしまうことも……あると思います」  彼女の言葉に、溝口課長の表情が消えた。 「仕事は結果なんだよ。一生懸命やったからって許されるもんじゃない」
/444ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6861人が本棚に入れています
本棚に追加