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「ならば、近藤さんにもそう言ってあげたらいいと思います。あんな風に大声を出されたら、言葉は頭に入ってきません」
『思います』と言っていた彼女が、そこだけは断言した。
「課長が苛立って大声を出してしまうのがわざとではないように、ミスをしてしまうのも泣いてしまうのもわざとではないと思います」
今度は『思います』と言った。
「どうだかな。泣けば許されると思っているかもしれないだろう?」と、課長が大きなため息をつく。
彼女の身体が、ギュッと強張った気がした。
「そういう……人もいるかもしれません。でも……、そうじゃない人もいるんです」
「そうじゃない人?」
「男の人の……怒鳴り声が……その人にとってどれほど怖いか……は、その人にしかわからない……ので……、決めつけるのは良くないと思います」
課長は彼女をじっと見て甘いコーヒーを一口飲むと、口を開いた。
「――あんたは俺が怖いか?」
「え?」
「あんたも俺が怖いか?」
嫌な予感がした。
いつもの溝口課長なら、他人の批評など気にしない。社内で何を噂されようと、仕事に影響がなければ構わない。
こんな風に、自分をどう思うかなんて、聞いたりしない――。
堀藤さんが『怖い』と言ってくれることを願った。そうして、課長が彼女を突き放せばいい、と。
けれど、彼女は少し困った顔をして、それから課長を真っ直ぐに見た。
「怖くありません」
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