1 五歳年下の上司

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 それを聞いた課長はニッと口角を上げ、カップをシンクに置いた。 「ブラックで淹れ直してくれ」 「は……い」 「それから、明日は暇か?」  はぁ? と言いかけて、なんとか呑み込んだ。 「休日出勤、出来るか?」 「溝口課長、堀藤さんは平日勤務のパートさんで、お子さんも――」 「近藤がミスした見積書は、月曜の朝までに先方にメールしなきゃならない。あの様子だと、誰も俺と休日出勤はしたくないだろう?」  俺の言葉を最後まで聞かず、課長が言った。 「あんたはタイプも早いし、正確だ。そして、俺を怖がっていない」 『子供がいるので休日出勤は出来ません』と言って欲しかった。けれど、またもその願いは一蹴された。 「十時から三時までで良ければ、出来ます」  出来ちゃうのかよ……。  俺は心の中で肩を落とした。 「じゃあ、頼むわ」  溝口課長はそう言って、給湯室を出て行った。
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