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「あんたも俺が怖いか?」
千堂が、堀藤が『怖い』と言うことを願っているとわかった。そう言えば、俺の興味がそがれると思って。
けれど、彼女は俺の目を見据えてきっぱりと言った。
「怖くありません」
面白い……。
やきもきしている千堂を尻目に、俺は楽しくなってきた。
口の中の甘ったるさに我慢できなくて、俺はカップをシンクに置いた。
「ブラックで淹れ直してくれ」
「は……い」
彼女の横に立った時、いい香りがした。
香水なんかの鼻につく香りじゃなく、石鹸のような不愉快じゃない甘くて爽やかな香り。
「それから、明日は暇か?」
千堂の間抜け面が視界に入り、吹き出しそうになった。
デートにでも誘うと思ってるのか?
「休日出勤、出来るか?」
「溝口課長、堀藤さんは平日勤務のパートさんで、お子さんも――」
堀藤が返事をしようと口を開きかけた時、千堂が割って入った。思わず舌打ちしそうになった。
「近藤がミスした見積書は、月曜の朝までに先方にメールしなきゃならない。あの様子だと、誰も俺と休日出勤はしたくないだろう?」
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