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彼女は十時十分前に来た。
いつもは紺の制服姿だが、休日は私服。
最近よく見かける襟の開いた薄いピンクのさらさらのブラウスに、黒のスカートみたいなパンツ、少し高めのヒールの短めのブーツ。
いつもの眼鏡はしていないし、いつもはファンデーションくらいしかしていない化粧も、今日は目元も色づいている。いつもは無造作に後ろで束ねている髪も、半分をクリップで止め、半分は下りている。毛先がくるっと丸まって揺れている。
印象ががらりと変わった。
とても美人だとかスタイルがいいとか、そういうのとは少し違う。
年相応の落ち着いた雰囲気。
「おはようございます」
彼女はデスクにコートとバッグを置き、パソコンの電源を入れた。
大きなバッグだな、と思った。
彼女が俺のデスクの前に立つ。
「見積書、ですよね」
「ああ。これ」と言って、俺は彼女に手書きの受注書を手渡した。
昨日と同じ、微かに甘い香りがした。
「価格表はあるか?」
「はい」
「じゃ、頼む」
「はい」
彼女が振り返ると、また香りがした。
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