1 五歳年下の上司

3/15
前へ
/444ページ
次へ
「何年生?」 「二年生! 兄ちゃんは五年生!」  弟君は弾む口調で言った。 「そっか」  子供と接したことがない俺は、その先の会話に困った。 「何、観るの?」 「コ〇ン!」  弟君が抱えているポップコーンに目がいった。コ〇ンの容器。 「もうすぐ始まるから、トイレに行っておいで」と言って、彼女がポップコーンを受け取った。  二人はトイレに向かって走り出し、彼女は心配そうに口を開いたが、言葉は発しなかった。 「元気なお子さんですね」  俺がそう言うと、彼女は嬉しそうに笑った。 「やんちゃで……」  会社では見せたことのない笑顔。  とても、幸せそう。 「課長もこれから映画を観るんですか?」 「え……? ああ。どうしようか迷ってたとこです。せっかく出てきたから、面白そうなのがあればと思って」 「そうですか」と言った彼女と、視線がずれた。  俺の肩越しに何かを探しているよう。 「あ、じゃあ、これで失礼します」  もう一度お辞儀をして、彼女が言った。  立ち去ろうとする彼女を引き留めたくて、一瞬でそうするための言葉を考えた。 「映画! 面白そうなの、わかりますか?」
/444ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6861人が本棚に入れています
本棚に追加