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「高いから!」
「違う!」と、お兄ちゃんが弟君を小突く。
「そんなにたくさん食べられないからだろ!」
「食べれるもん!」と、弟君も負けじとお兄ちゃんに言い返す。
「やめなさい」と、彼女は母親の顔で言った。
その時、館内にコ〇ンの入場を開始するアナウンスが流れた。
「お母さん、行こう!」
「亮、ポップコーンこぼさないでね」
今にも弾け飛びそうな息子に注意して、彼女は映画のチケットをお兄ちゃんに渡した。
「じゃあ、失礼します」
彼女は軽く頭を下げ、慌ただしく入場者の列に並んだ。
お兄ちゃんがチラッと俺を見て、母親と同じように頭を下げた。
小学五年生にしてはしっかりした子だな、と思った。
そう言えば、お兄ちゃんの名前は聞かなかったな……。
俺は空いたレジに並び、キャラメル味のポップコーンを買うと、まだ入場を待っている彼女に歩み寄った。係員が入場者プレゼントの配布に手間取っているようで、なかなか先に進まないらしい。
「はい、キャラメル味」
俺はお兄ちゃんに差し出した。彼は受け取るのを戸惑った。
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