1 五歳年下の上司

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「え? そんな、いいです。気を遣わないでください」と、彼女が言う。  お兄ちゃんは受け取らない。 「でも、買っちゃったし。俺、甘いものは食べないんですよ」 「けど……」  遠慮する母親を尻目に、俺はお兄ちゃんに押し付けるようにポップコーンを手渡した。 「ありがとうございます」  お兄ちゃんは真っ直ぐに俺を見上げて、言った。 「俺もキャラメル、食べたい!」と、亮君が言う。 「仲良く食べるんだよ」 「すみません。ありがとうございます」と、彼女が本当に申し訳なさそうに言う。 「ありがとうございます、おじさん」 「亮! おじさんじゃなくてお兄さん!」  彼女は俺を『おじさん』と呼んだ息子に訂正する。 「会社の偉い人なんだよ」 「全然偉くないし、三十半ばにもなればおじさんで正解ですよ」 「すみません……」と、彼女がまた謝る。  入場の順番がきて、三人はチケットの半券と入場者プレゼントを受け取って、進んだ。 「あ、課長!」  彼女が思い出したように振り返った。 「五番スクリーンのサスペンス、映画祭で受賞してましたよ」  ペコッと最後にもう一度頭を下げて、彼女は息子たちと共に人の波に消えた。  十五分後。  俺は五番スクリーンの一席にいた。
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