1 五歳年下の上司

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 溝口課長は俺より三才年上で、ヤリ手だがかなり強引で部下に厳しい。俺も一年ほど彼の部下をしていたが、何度も辞めたいと思った。  一課(うち)まで空気が悪くなるから、やめてくれよ。  実際、フロア全体の意識が溝口課長に集中し、手が止まっている。  堀藤さんも、キーボードを叩く手が止まっていた。  俺は同行した風間(かざま)から議事録を受け取ると、ざっと目を通して堀藤さんのデスクに近づいた。 「忙しいですか?」  声を掛けた瞬間、彼女の肩がビクッと強張ったのがわかった。首を九十度回して俺を見た彼女の顔は青ざめていた。 「堀藤さん?」 「は……い」  様子がおかしい。  彼女はいつも、話す相手の顔を見る。なのに、今は全く視線が交わらない。  怯えるように肩を竦め、デスクの上で両手をしっかりと組んで、爪が白くなるほど力が入っている。 「使えねぇ奴はいらねぇんだよ!」  溝口課長の怒鳴り声が聞こえ、堀藤さんの目にうっすらと涙が滲むのがわかった。  訳が分からなかったが、とにかく彼女を放っておけなかった。 「仕事を頼む前に、コーヒーを淹れてもらっていいですか?」
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