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溝口課長は俺より三才年上で、ヤリ手だがかなり強引で部下に厳しい。俺も一年ほど彼の部下をしていたが、何度も辞めたいと思った。
一課まで空気が悪くなるから、やめてくれよ。
実際、フロア全体の意識が溝口課長に集中し、手が止まっている。
堀藤さんも、キーボードを叩く手が止まっていた。
俺は同行した風間から議事録を受け取ると、ざっと目を通して堀藤さんのデスクに近づいた。
「忙しいですか?」
声を掛けた瞬間、彼女の肩がビクッと強張ったのがわかった。首を九十度回して俺を見た彼女の顔は青ざめていた。
「堀藤さん?」
「は……い」
様子がおかしい。
彼女はいつも、話す相手の顔を見る。なのに、今は全く視線が交わらない。
怯えるように肩を竦め、デスクの上で両手をしっかりと組んで、爪が白くなるほど力が入っている。
「使えねぇ奴はいらねぇんだよ!」
溝口課長の怒鳴り声が聞こえ、堀藤さんの目にうっすらと涙が滲むのがわかった。
訳が分からなかったが、とにかく彼女を放っておけなかった。
「仕事を頼む前に、コーヒーを淹れてもらっていいですか?」
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