6 二人の距離

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「帝王切開の傷があるんです」     無意識に、お腹の傷に触れる。 「痛いのか?」と聞いた智也の声は、柔らかかった。 「痛くはないけど……」 「けど――?」 「子供を産んだ後、痩せたり太ったりを繰り返したから、たるんじゃって……。傷痕はほとんど見えなくなってるのに、引き攣って、みっともなくて……」 『みっともない身体だな』  こんな時に、元夫(あの人)の言葉を思い出す。 「ホントに……みっともなくて――」 『女として終わってるだろ』  吐き気がする。  今も元夫(あの人)の言葉に縛られている自分が情けない。  悔しい――。 「みっともないかは――」  元夫(あんな男)の言葉に泣いてなんかやるものかと歯を食いしばった時、智也に抱きすくめられた。 「見ても触ってもいないからわかんねーけど、きっとそうは思わないと思うぞ」 「それは、見てないから――」 「だから、『きっと』だよ。見てもいないものにどう感じるかは、わかんねーからな。けど、誰にだってコンプレックスはあるだろ。痩せてる、太ってる、胸が大きい、小さい、息子がデカい、小さい、太い、細い、とかとか」  智也の息がおでこにかかる。息に揺れる前髪がおでこをくすぐる。 「だから、気にすんな」 「は――?」  思わず、すっとんきょーな声が出てしまった。 「何だよ」 『気にするな』なんてありきたりな言葉を言われるとは思っていなくて、びっくりして、おかしくなってきた。 「ふふふ……。あははははっ……」 「何だよ!」 「だって……」  智也らしいな、と思った。  正直過ぎでしょ……。    智也の胸で、涙が出るほど大笑いした。  そして、泣きつかれた子供のように、智也の腕の中で眠りについた。
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