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「帝王切開の傷があるんです」
無意識に、お腹の傷に触れる。
「痛いのか?」と聞いた智也の声は、柔らかかった。
「痛くはないけど……」
「けど――?」
「子供を産んだ後、痩せたり太ったりを繰り返したから、たるんじゃって……。傷痕はほとんど見えなくなってるのに、引き攣って、みっともなくて……」
『みっともない身体だな』
こんな時に、元夫の言葉を思い出す。
「ホントに……みっともなくて――」
『女として終わってるだろ』
吐き気がする。
今も元夫の言葉に縛られている自分が情けない。
悔しい――。
「みっともないかは――」
元夫の言葉に泣いてなんかやるものかと歯を食いしばった時、智也に抱きすくめられた。
「見ても触ってもいないからわかんねーけど、きっとそうは思わないと思うぞ」
「それは、見てないから――」
「だから、『きっと』だよ。見てもいないものにどう感じるかは、わかんねーからな。けど、誰にだってコンプレックスはあるだろ。痩せてる、太ってる、胸が大きい、小さい、息子がデカい、小さい、太い、細い、とかとか」
智也の息がおでこにかかる。息に揺れる前髪がおでこをくすぐる。
「だから、気にすんな」
「は――?」
思わず、すっとんきょーな声が出てしまった。
「何だよ」
『気にするな』なんてありきたりな言葉を言われるとは思っていなくて、びっくりして、おかしくなってきた。
「ふふふ……。あははははっ……」
「何だよ!」
「だって……」
智也らしいな、と思った。
正直過ぎでしょ……。
智也の胸で、涙が出るほど大笑いした。
そして、泣きつかれた子供のように、智也の腕の中で眠りについた。
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