6 二人の距離

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「ノベルティ用に」 「ノベルティ?」 「はい。春に三店舗同時オープンする美容室で配るノベルティが、あのポーチにヘアケア商品のサンプルを入れたものだったはずです」  私が勤める『Free(フリー) Style(スタイル) Production(プロダクション)』では、その名の通り自由な発想に基づいて、多岐に渡る商品開発をしている。  それを大きく三つに分類すると、食品部門、雑貨部門、美容部門となる。  千堂課長率いる一課は食品部門の営業、溝口課長率いる二課は雑貨部門、倉田課長率いる三課が美容部門となっている。  今回、平野さんが発注ミスしたのは、ファンシーショップが来月のオープン一周年記念用に企画したショップのロゴ入りファスナーポーチ千個。  それを、工場に百個発注してしまった。  幸い、納品までまだ一週間あるから、工場でも追加生産されるけれど、一週間で九百個というのはかなり厳しい。  事情も事情だから、追加生産分は当然、追加料金が発生する。  納品が間に合っても、利益が上がらなくなってしまう。  間に合わなければ契約違反で違約金ものだ。 「春にオープンなら、ノベルティの準備には早くないか?」 「オープンがずれ込んだんです。ショップ名とロゴの登録が遅れて。なので、先に発注してあったポーチは、ロゴが入っていない状態で倉庫に保管されているはずです」 「なるほど。それが確かなら、ロゴを入れるだけで納品できる」 「はい。ただ、三課の在庫の数がわからないんです。九百もあるかまでは……」  恐らくは、五百がいいところだろう。  これは本当に自信がないから言わないけれど、美容室から受注したポーチは三色だったはず。三店舗のそれぞれのカラーで。 「彩」 「はい」 「記憶に間違いがなかったら、今夜は好きな物を奢ってやるよ。何がいいか、考えておけ」 「……はい」
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