6 二人の距離

10/24
6750人が本棚に入れています
本棚に追加
/444ページ
 二時間後。  私と智也は車に段ボールをぎゅうぎゅうに詰め込んで、会社から車で四十分ほどの場所にある、工場に向かっていた。  三課は平野さんが発注ミスしたポーチを五百個、倉庫に保管していた。  納品日は未定。  智也は倉田課長に電話し、在庫を貸してほしいと頼んだ。  倉田課長は了承した。  倉田課長は昨日の午後は外回りに出ていて、平野さんの発注ミスを知らなかった。  工場が稼働していることを確認して、ポーチを運ぶことにした。ロゴを入れてもらうために。 「彩のお陰で助かったよ。ありがとう」 「お役に立てて良かったです」 「飯、何食べたい?」 「気にしないでください」 「気にするだろ。昼だし」  カーナビの左上の時計は十二時十五分を表示している。 「荷物を降ろしたら、飯にしよう。あの辺りに美味い店、あったかな」 「課長、私――」  言いかけた時、バッグの中でスマホが震えた。  母からの着信。 「ちょっと、すみません」と言って、私はスマホを耳に当てた。  座り直して、ドア寄りに身体を向ける。  智也が、音楽のボリュームを下げてくれた。
/444ページ

最初のコメントを投稿しよう!