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コチッと、壊れたスイッチのような音が頭に響いた。押しても押しても何の反応も得られないような、軽い感触。
手応えが欲しい。
「プライベートで『課長』はやめてくれない?」
「え?」
「美味い酒も不味くなる」
「はぁ……」
ウエイターがビールとワインを運んできた。
「あんた、酒強いの?」と、俺はグラス半分を喉に流し込んでから聞いた。
「強くないです」
「酔うとどうなんの?」
「ずっと笑ってます」
「へぇ。いいな、楽しい酒で」
「かちょ――溝口さんはお酒強そうですよね」と、彼女が皿に残っていたピザを銜えながら言った。
「弱くはないな」
「私、デザート取って来ますけど、食べます?」と言いながら、立ち上がる。
「苦めのチョコレートケーキかチーズケーキがあれば、頼む」
「わかりました」
彼女はデザートが置かれたテーブルの端から端をじっくり見て、皿を持った。二口もあれば食べられそうな大きさのケーキを、一つずつ皿に乗せていく。
全部取るつもりか?
十種類はあるケーキは、窮屈そうに皿に並べられた。それを俺の前に置く。小さい取り皿と一緒に。
「好きなのをどうぞ」と言って、彼女はまたデザートの一角に戻って行った。
そして、フルーツと団子のような和菓子が乗った皿を持って、戻ってきた。
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