峰君の見てる風景

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 それ観終わったら、ベッドに来てくださいね? ソファと交代しますからって、言えなかった。ダメなワードが入ってるもん。「きてください」なんて言っちゃいけないんだよ。一瞬でも期待させるようなことは……絶対ダメ。 「あ、風呂も行ってきなよ。タオルはあるから」 「……はい」  その時、僕の携帯が鳴った。着信だ。「こんな夜遅くに誰よ?」って思いながらカバンから携帯を取り出す。   「仙波さんっ?」 「え?」  なんで? デートのはずなのに。  慌てて携帯を耳に当てる。 「もしもし? どしたの? うん。うんうん。うん……うん。そっか。で、今どこ? ……オーケー。迎えに行くよ。大丈夫。タクシーで行くから。ね? ……うんうん。待ってて?」  通話を終了してポケットに携帯を突っ込むとバッグを掴んだ。 「ゴウさんすみません。行きます。なんか、仙波さんひどく落ち込んでるっぽいんで」 「うん。気をつけて」 「はい。いってきます」  玄関まで早足で行くと、ゴウさんが追いかけるようにやって来た。 「峰」 「なんです?」  靴に足を突っ込みながら振り返り、被せるように返事をした。ゴウさんは一瞬口をつぐみ、苦笑いの表情になった。 「……慌てて、コケるなよ」 「大丈夫です。じゃ、すみません! ご馳走様でした!」
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