峰君の見てる風景

9/9
前へ
/15ページ
次へ
 なんで?  ゴウさんはニコリともせず口を開いた。 「仙波ちゃん行ったの?」 「あ、はい」 「呑気なもんだな。人の気も知らないで」 「……え……」  ゴウさんがそんなふうに言うのは初めてで、僕はますますビックリした。  あさっての方を向いて仙波さんを批難したゴウさんは、こちらに顔を向けてニッコリと笑った。 「メリークリスマス。はい。これ」  洒落た手提げ袋には有名な時計ブランドのロゴ。 「……あ、ありがとうございます」 「こちらこそ、いつもありがとう」  プレゼントを受け取ってしまって戸惑ってるとゴウさんが言った。 「じゃ、独り者同士、飲みに行こうか?」 「…………」  まだ、誘ってくれるの? あんなひどいことしたのに? 「……ゴウさん、いい男過ぎ」  期待させる言葉は言っちゃいけないって。あれほど思ってたのに、言っちゃってた。  ゴウさんは腕を上げ、僕の前髪を長い指で()くように触れた。 「峰の寂しそうな顔、見たくない」  おかしなことに、急に回りの酸素が薄くなった。そのせいで頭が回らない。言葉を探してるうちにゴウさんが続けた。 「もういい加減さ、俺のこと好きになれよ」  そのセリフ、女の子だったら恋に落ちてるよ。間違いなく。  そう思ったけどリアル過ぎて言えなかった。  だから僕は……結局、笑って誤魔化した。  ゴウさんを好きになってしまったら、今よりもっと甘くて苦しくて切ない時間が待ってる。  そんな気がしたから。 完
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

111人が本棚に入れています
本棚に追加