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なんで?
ゴウさんはニコリともせず口を開いた。
「仙波ちゃん行ったの?」
「あ、はい」
「呑気なもんだな。人の気も知らないで」
「……え……」
ゴウさんがそんなふうに言うのは初めてで、僕はますますビックリした。
あさっての方を向いて仙波さんを批難したゴウさんは、こちらに顔を向けてニッコリと笑った。
「メリークリスマス。はい。これ」
洒落た手提げ袋には有名な時計ブランドのロゴ。
「……あ、ありがとうございます」
「こちらこそ、いつもありがとう」
プレゼントを受け取ってしまって戸惑ってるとゴウさんが言った。
「じゃ、独り者同士、飲みに行こうか?」
「…………」
まだ、誘ってくれるの? あんなひどいことしたのに?
「……ゴウさん、いい男過ぎ」
期待させる言葉は言っちゃいけないって。あれほど思ってたのに、言っちゃってた。
ゴウさんは腕を上げ、僕の前髪を長い指で梳くように触れた。
「峰の寂しそうな顔、見たくない」
おかしなことに、急に回りの酸素が薄くなった。そのせいで頭が回らない。言葉を探してるうちにゴウさんが続けた。
「もういい加減さ、俺のこと好きになれよ」
そのセリフ、女の子だったら恋に落ちてるよ。間違いなく。
そう思ったけどリアル過ぎて言えなかった。
だから僕は……結局、笑って誤魔化した。
ゴウさんを好きになってしまったら、今よりもっと甘くて苦しくて切ない時間が待ってる。
そんな気がしたから。
完
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