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峰はため息をつきながら仙波ちゃんの正面へ立った。
俺たちよりひとつ下とは思えない妙に落ち着いた雰囲気。いつも地味なグレーのスーツを着込み、その上からADみたいなバッグを背中に斜めがけしている。
草食動物のようだなっていつも思う。ウサギっぽいって言ったらいいのか。黒目がちな瞳はいつも四方八方に目を配ってるし、実際は生えてないけど大きな耳をピコンと真っ直ぐに伸ばし、アンテナにしてひっきりなしに何かを考えてるように見える。空気を読むのもお手の物。頭の回転も早いし、マネージャーは天職かもしれない。
口を尖らせてネクタイを両手に持ったものの、峰はすぐに手を離して、仙波ちゃんの身体をクルッと反対にした。仙波ちゃんは峰より頭ひとつ背が高いから、当然立ったままではネクタイを結べない。
「向き同じにしないと分かんないから……座ってください」
「はーい」
仙波ちゃんがパイプ椅子をガガガと引っ張り座る。その後ろから峰が、背中に抱きつくみたいにネクタイを両手で掴んだ。
「えっと。こうね? ちょっと! 仙波さん、ちゃんと僕の手元見ててよ!」
「ごめん、ごめん。LINE返事しなきゃ」
「手、じゃーまっ!」
「ふははは」
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