会社大遅刻中

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大発見への喜びも早々に、早速意識改革を行った俺は、会社のやつに怒り心頭であった。怒りの余り、思わず舌打ちを鳴らす。鼻の付け根が細かに震える。あの馬鹿、約束の八時まであと三分だというのに、屋上の貯水タンクさえ見せていない。それどころか遅刻の連絡も寄越さないではないか。立ちながら貧乏ゆすりしたのは初めてだ。考えられない。苛立ちは「あの野郎今どこで何をしていやがる」というような相手の現在地の不明さによるものではない。不思議なことに、今会社がどこにいるのかだけは手に取る様に分かる。怒りは、寧ろ現在地の理解を原因としている。 会社のやつ、全く動いていないではないか。同じところで立ち尽くしている。本来であれば排気口から咳のような息を吐きながら走って来なければならないのに。酷いものである。 各駅停車が過ぎて少ししてから、ようやく会社のやつは動き始めた。急行電車にいる俺の横で、街は猛スピードで後ろに移動してゆく。今こちらに向かって全力疾走している。先ほどまでは寝ぼけていたに違いない。ようやく自分の置かれたただならぬ状況に気が付いたというわけだ。しかしもう間に合いようもないことは時計を見ずとも分かる。 瞼を閉じながら、俺は静かに微笑んでいる。意外にも、俺の胸中の怒りは少なくなっていた。怒りが行き過ぎて呆れに変わったのではない。こんな失敗を犯した会社が俺の前に、どのような顔をして現れるのかが楽しみになってきたのである。遅刻という失敗の性質上、時間が長くなればなるほど負債は積み上がってゆく。会社のやつは重荷を増やしながらこちらに向かっているのである。それを考えると、酷くなる一方の会社の切羽詰まった心情が、他人事であるからこそ面白くて仕方がない。会社はどのように俺に謝るつもりなのだろうか。柱が折れるほど腰を曲げて泪ながらに許しを請うだろうか。それとも「違うんです違うんです」と繰り返しながら一生懸命考えた言い訳を必死に並び立てるのだろうか。想像するほど笑いが込み上げて来る。全く他人の失敗というのはどうしてこうもウケてしまうのだろうか。
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