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北海道にいた頃は自分に訛りなど無いと思っていたけれど、短大入学と同時に東京に出てきてからは会話する度に「それって方言?」と指摘され続けた。それが嫌でいつの間にか私は口数が少なくなってしまった。
多分相手はただ新鮮で聞き返すのだろうが、こちらとしては田舎者というレッテルをその度にペタペタと貼られている感覚だった。
「植西はビール?」
「あ、いえ。えっと、あらごし柚子梅酒サワーで」
「じゃあビールとそのなんとか柚子梅酒サワー一つずつ」
面倒見の良い山中さんは店員さんに注文すると、その大きな体を縮こませながら温かいおしぼりで手を拭きながら幸せそうに笑った。
「あー、生き返る。今日は寒かったなー」
「そうですね、凍れま……」
あ、また出ちゃった。
つい口から出た方言に顔をしかめる。
「わっ、久しぶりに聞いた!凍れる。そうそう」
「……え、山中さんわかります?凍れるって」
「俺はあんま言わなかったけど母親とかよく言ってた。植西は旭川だっけ?」
「はい。山中さんも、もしかして北海道ですか?」
「そ。俺、札幌。見た感じ、都会人っぽいだろ?」
がはっと笑う姿が熊みたいで愛嬌がある。
私もつられて笑う。
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