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ぬくもり言葉
「あ……」
目の前に舞った雪。
見上げると大粒の雪がハラハラと舞い落ちてくる。
私は手袋を……嵌めたままの掌を差し出し、その雪の一粒を空から受け取った。
故郷では雪なんて降る度にうんざりだったけれど、今は懐かしくて愛おしい。
つい口元が緩む。
積もるかも……。
そう思いながら、掌に重なっていく雪と空とを見比べていた。
「あ、植西も今来たとこか?」
背後からの太い声に振り返ると、先輩の山中さんだった。小さな会社とはいえ普段は部署が違うから話すことも少ない。
「はい。雪、降ってきましたね」
「ああ。なんか積もりそうな降り方だな」
「ええ。そう、ですね」
積もりそうな降り方……。
その言い回しに、彼ももしかしたら雪国の出身なのかもと思いながら、その後をついて暖簾をくぐっていく。
「お、漸く来たか。お疲れさん。先始めてたぞ」
専務が上機嫌で空になったジョッキを掲げている。
仕事納めの今日、うちの会社の忘年会。
定時直前に電話が鳴り私以外は全員先に会社を出たと思っていたけれど、山中さんも遅れて来たらしい。空いていた席はもうその二人分のみ。
コートについた雪をほろっ……はらって掛ける。
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