君が来てくれるなら

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約束の時間の5分前。 君が指定した駅前の、通行の邪魔にならなさそうな壁際にもたれかかって空を見上げた。 ちらり、雪が落ちてくる。ふぅと吐いた息は白くけむって。すぐに、空気へと溶けていく。 寒い。 ぶるり、一つ身震いして腕を擦った。 目の前にあるビルの壁際に取り付けられた時計を見ると、ほんの僅か、予定の時間を過ぎている。 ポケットからスマホを取り出して確認したが、君からの連絡はない。 溜め息を一つ。 君はいつもそうだ。 いつも、連絡もなく、遅れてくる。 数分、数十分、ひどい時には何時間も。 僕が心配して胸がつぶれそうになっても、どうしたの?ってラインで訊いても、君はいつも応えない。 僕はいつも君を叱って、だけどいつも許してきた。 だって、ごめんね、なんておざなりな謝罪で約束の場所へ駆けてくる君の、へにょっと下がった眉がなんだかかわいくて。 ちゃんと、君が来てくれた、それだけで嬉しくて安心して。 僕は結局許してしまう。 今日だってきっとそうだろう。 だけど、こんな時にはどうしても想像してしまうんだ。 例えば君が、何処かで事故にでもあってたらどうしよう、だとか。このまま君が来ないんじゃないかとか。 だから僕 は 今 も願っている。 それらが全部杞憂で、君がいつもの情けない顔をして此処へ駆けてきてくれるのを。 ただ、それだけを願っている。 だって僕は君が好きだから。 本当はこんな風、少しの不安を抱えながら、駆けてくる君の顔を想像するのも、僕は存外嫌いじゃないんだ。 ちらり、ちらり、雪が降る。 白く、辺りをけむらせる。 だけどこんなに寒い日は、やっぱり早く君に会いたいな。 君は、いつ来るのだろう。 もう一度見た時計は、あまり進んではいなかった。
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