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「いつになったら運転再開するんだよ!」
「すみません、今作業してますので……」
「ったく、会議に間に合わねえじゃねえか」
平日の昼下がり、サラリーマン風の男の怒った声に、駅員は申し訳なさそうに答えていた。彼は1時間半後に押上駅近くで会議があるので焦っていたようだった。駅員に言っても仕方がないのだが……
湘南急行横浜駅は、悪天候によって電車が止まり、運転再開を待つ人たちでごった返している。JRも止まっているので待つしか無い。
『おまたせしました! 運転再開となります』
「やっとか。今出れば間に合いそうだ」
改札機にICカードを通してホームに向かうと、ほどなくやってきた電車は、快特青砥(あおと)行きと書いてある。50分遅れで、かなりの人が乗り込んでいた。先頭付近に空きスペースを見つけた彼はそこに立つと、ドアが閉まって急加速で動き始めた。
『本日は列車が遅れましたことをお詫び申し上げます。なお、この先状況によりましては、行き先が変更となる場合がございますのでご了承下さい』
動き出したまでは良かったが、加減速を繰り返し、神奈川新町駅手前で止まってしまった。
「早く走れよ、ったく」
またも男はイラつき始めた。5分ほど待っても動かない電車に、当たり散らし始めそうな雰囲気だ。
「車掌さーん、まだ動かないのか?」
「はい。前にいる普通車が、まだ新町に入って無いからだと思います」
「早くしてくれよ、何やってんだ!」
♪ぴんぽんぱんぽん♪ぴんぽんぱんぽん
「こちらは新町指令です。線路開けましたので発車して下さい」
「やっとかよ!」
「俺より先に運転士がキレてた……」
運転席からの声にあぜんとしていた男をよそに、やっと動き出した電車は一気に加速して神奈川新町駅を通過。そのままどんどん速度を上げていく。
「これからは少しは冷静に待つことにしようか……」
少しでも遅れを取り戻そうと、時速120キロでかっ飛ばす電車の中で、男は今までの行いを反省するのであった……。
『お客様にご案内申し上げます。本日この電車は品川止まりとなります。押上、青砥方面においでのお客様は品川駅にてお乗り換えとなります。お客様にはご迷惑をおかけいたしますことをお詫び申し上げます』
「……」
列車を制御する無線が必死に飛び交う中、男は怒りを抑えつつ、会議に遅れる連絡をするのであった……
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